五拾画廊 浮世絵コレクション!|fifty-gallery

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古美術や浮世絵、絵画、美術関連のコラム

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たかが紙一枚、されど紙一枚 / 第一回

2016-04-26  


 

〜 春画は愉し 〜
※18歳未満の閲覧はご遠慮ください

文と構成:吉 いと子


日本でも画期的だった??永青文庫の春画展
2013年にイギリスの大英博物館で行われた初の大規模な春画展は、日本の美術界でも大きな話題だったそうです。何が話題になったって、「来るのか??この展示は日本でできるのか??」というドキドキワクワク、ソワソワがそりゃぁ大変だったそうで。
そんな中、2015年に永青文庫で行われた春画展はまだ記憶に新しいところです。この連載をお読みになっている方の中にも、「行った!行った!」という方、多数いらっしゃるかと思います。連日大盛況で、平日足を運んだという方たちの話を聞いても、牛歩移動でおしくらまんじゅうだった、とのこと。しかしやはりと言うかなんと言うかこの春画展、開催までの道のりは主催者関係者さんのそれは大変なご苦労があったとか。
日本で日本の美術の展示ができない??…そう、それは何故ならそれが「春画」というジャンルだからです。当HPでも、春画のページは「18歳未満お断り」。この連載だって、後で春画の画像をペタッと貼り付けちゃってるから18歳未満は禁止です。春画は日本では「美術」だけれど「タブー感」満載。
でも、大英博物館みたいな伝統のあるところで展示できたのであれば、イギリスでは春画は「美術」でありタブーなんかじゃないってこと?…疑問はいろいろ湧いてきます。

そもそも春画ってなに?どうやって楽しむもの?美術なの??一体なんなの??

そんな問いの答えの一助となればと、今回の春画展や春画の歴史、楽しみ方についてちょこっとお話ししようと思います。

蓋を開けたら大盛況!これぞ春画のサードウェーブ?
冒頭で書いたように、日本ではそんなタブー感が色濃い中、そもそも展示できるのか?場所を貸してくれる美術館があるのか?とドキドキハラハラ、開催が危ぶまれたという春画展。永青文庫さんで開催が出来たおかげで結果的に大人気の素晴らしい展示となったのですが、当初はこれほどまでに老若男女が押しかけて熱気ムンムン、大盛況になるとは…まさかまさか、だったと思います。
どれだけ大変だったか??はこちらの記事をご参考に
当五拾画廊にも春画のお問い合わせはとても増えたとのこと。春画への興味がもともとあった方、これを機に興味を持たれた方、何はともあれ、春画が再び注目を集める絶好の機会となったわけです。
私も一個人として「春画展行った。良かった!」という友人知人のSNSの投稿をたくさん見かけました。どんな人が興味を持っているのかなあ、と周りを見渡すと、美術が好きな方はもちろん、アニメが好きな方や歴史が好きな方、カメラ、音楽、雑誌編集、マスコミ系など幅広くクリエイティブ系のお仕事の方が特に興味を持たれているなあという印象がありました。
各々の記事を見ると、「春画を永青文庫に見に行った」がちょっとしたおしゃれなステータス感すら醸し出している感じ。まるで流行のコーヒーショップに行った、という気軽さで皆さんが春画を語っているライトさが、まるで江戸庶民の春画の楽しみ方そのものだ!と愉快にすらなってきます。
そう、昔の江戸庶民にとっての春画は決してタブーな18禁ではなく、みんなで楽しむ小粋な文化だったのです。

「〇〇って絵師の新しい春画出たらしいよ」
「マジで〜それ買おう!いつ発売かな?」
「お!それ気になってるんだよね、買ったら見せて見せて!」

今時のエッジな新製品に心躍らせる若者たちとなーんの変わりもない、当時、それはそれは楽しいものだったようですよ。

永青文庫理事長の細川護煕氏も春画の魅力について語っていらっしゃいます

パッと見のインパクトも魅力、ディテールも魅力!
日本人の眠ったDNAへの刺激なのか?こんなにも人々に支持されていたことがじわじわ明らかになった春画。そもそも春画の魅力とは一体何なのでしょう?
実は春画は、こっそり隠れて見るポルノグラフィティとはちょっと違うもの。上でリンクを貼った記事でも触れられていますが「笑絵」という面白おかしいものだったのです。
春画が最も盛んに刷られた江戸時代の周辺は、とにかく絵師のクオリティが高く、豊富だったことはご存知の方も多いはず。
師宣、春信、歌麿、北斎、広重、国芳、芳年…
春画の残っていない絵師は写楽だけだったとの説があるくらい、どの絵師も各々の趣向を凝らし、こぞって春画を描いていたのです。
個人的に私自身も好きで、周りにもファンが多いと感じる有名な春画はこちら。

 

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「蛸と海女」1820年頃 作:鉄棒ぬらぬら(葛飾北斎)

葛飾北斎の図です。(…ペンネーム!笑)
タコに襲われている美女…まあなんて艶かしいのでしょう。確かにエロティックだけれど、構図の迫力に目を奪われます。この他にも目を奪われるような衣装の美しい描き込みのあるもの、とんでもなくグラフィカルなもの…とまあ問答無用に視覚に訴えかけてくる春画は内容なんて分からなくても「すごい!」「かっこいい!」「美しい!」と感動できるのですが、春画の楽しみ方は、実は見た目だけじゃないんです。

「笑絵」としてのユーモアに富んだ春画の中には、シリーズ物として楽しめるものもあります。画面端にあらわれる流浪の性の探求者、「豆男」に注目。秘薬で小さくなった主人公・浮世之介が「真似ゑもん(まねえもん)」と名乗り、色道の奥義を探求するという物語。現代の私たちにはにょろにょろっとした模様にすら見える文章を合わせて読むことで、豆男のツッコミの面白さを堪能できます。
例えばこの図、さあ、豆男はどこ?

 

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「風流艶色真似ゑもん」明和7年(1770) 作:鈴木春信

真似ゑもんは「やりクリ仕間」(…なんじゃそれ)を訪れ、不義を働いた夫が奥さんに捕らえられる場面に出くわします。襖の向こうに夜具が見えるので、どうやら男は夜中に起き出して、隣の部屋の若い女のもとへやって来た模様。行灯(あんどん)を手にした奥さんが起きてきて夫を捕らえ、そのフンドシをひっつかんで夫をズルズルと部屋から引きずり出しているところで、男はすっかりショボーンとしており(図のごとく)、片手を上げてゴメンナサイポーズ。ぷっくりお腹と、そこに巻かれた岩田帯から奥さんは妊娠中らしい。画の中の会話から若い女子は妊娠中の奥さんのお手伝いさんなのが読み取れます。恥ずかしさなのか眠さからなのか顔を覆いながら「もしおばさん、みんなわたしが悪い。かんにんして下さんせ。」なーんていって謝るところを見るともしや夫を誘惑したなかなかの悪女?その着物の陰から真似ゑもんがひょっこり顔を覗かせて、「サア、山のかみのごしんがもへだした。是はなかなかこんやのせんさくにはいかぬこと。」と宣っております。どうやらこの修羅場をヒューヒュー冷やかしながら楽しんでいるというわけ。
さて、次の図。

 

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「風流艶色真似ゑもん」明和7年(1770) 作:鈴木春信

寺子屋にいる真似ゑもん。手習いにきた少女を襲う師匠の様子を机の端からこっそり覗いております。師匠は、振袖の少女の上に無理矢理のしかかって「おらんもおとんもおひぬかせて、此つぎにハちか道、子だからをおしよふが、それでもいやか。まま一ツ時こらや。(同級生のいない間にもっと大事な子作りのやり方を教えてやるからちょいとがまんしなっ(意訳))」少女は男を押しのけながら「あれあれおししやうさん、かんにんして下さりませ」。画面上の詞書は、師という立場を利用して女を無理やり手篭めにするなんて全く非道じゃっと述べているし、真似ゑもんも女性に同情的。これは笑えない絵だけれど、教訓的な意味も含まれて…いながら外では、オス猫ちゃんがメス猫ちゃんを襲ってるというユーモアが織り交ぜられているところが、笑絵春画、さすがです。

他にも、画面中の人物の衣装が、例えばお葬式の帰りだったり、後家さんの逢いびきだったり、当時の風俗を知っていると「なにそれ、ありえない!」「やばいでしょ!」と思わずツッコミたくなるシチュエーションを楽しむ「クスクスおかしさがこみ上げタイプ」の図もありますので、当時の風俗TPOや着物の着方、化粧の方法など知って見てみると、いろいろな発見が広がるに違いありません。
そして、下記の図は五拾画廊でも扱いがあった図で、当店 イチオシ。名手、湖龍斎(こりゅうさい)の晩年の傑作です。目線だけで語る、人物の相関図。文章もないのでじっと見れば見るほど、いろいろな想像力が刺激されてとっても面白いのです。ぜひ、じっくり見てみてください。各々の目線の先に何があるか…!

 

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「色道取組十二番」安永6年(1776) 作:磯田湖龍斎

ちょいとネタバラシをすると、この絵の中には性的に成熟した男性が3人います。
番台の親父さん、そして二人の女の子のような髪結いをした男子。お金を払うと体を洗ってくれるサービスボーイ達(三助(さんすけ))です。さて、番台の上の美男子の目線は?そして彼のただいまの状況は…指差す童子にバレバレ、といったところでしょうか。もう一人の背中を洗う男子は。ありゃ、洗われている年増女にちょっかい出されちゃってますね…。そんな各々の様子を見渡せるはずの番台の親父さんはといえば…(おや、女子には興味がないのかな…?)
とまあ、そんな読み解き遊びが楽しめるわけです。このバリエーションと知的な遊びの仕掛け。江戸の人たちが単にエロスを求めていたのではなく、新作の春画が刷りあがる度にもっと高度な発想でキャッキャッと楽しんでいた姿、想像できますよね。

 

蓋をされた春画の斜陽時代…ついに終焉か?
こんなお茶目な春画がなぜ、一体いつ背徳的なイメージを持つようになったのか…
そのきっかけは、歴史でご存知の通り江戸後期の天保の改革の「贅沢禁止令」での厳しい取り締まりと弾圧。…もありましたが、意識の上で決定的に「はずかし!」となっていったのは海外文化の進出にあったと言われています。「肉体は恥」とするキリスト教的な西洋の考え方が広まってから、笑絵=春画は「とんでもなく恥ずかしいもの」として地下に潜っていった文化だったという説。そりゃぁ姦通や淫乱を大笑いしながら見る日本人たちは、当時の西洋の人たちにはさぞさぞ野蛮に見えたことでしょうね…

…って…ハッ…!

西洋文化が否定してきたものなら、あの2013年の大規模春画展を率先して行ったイギリスでもタブーだったのでは??と思われるでしょう。実際、イギリスでも春画は、過激表現故に長年お蔵入りになっていたそうです。それがなぜ、今回の大規模展覧会となったのか?

ご参考に。大英博物館の春画展キュレーターのインタビュー

イギリスでも16歳未満は保護者同伴、だったようですが、その展示は世界的にも高い評価を受けました。学術的価値による再評価、といったところでしょうか。性を扱いながら暴力的ではなく、根本的に平和的なほのぼの図柄が多いのも注目されている点。これでお蔵入りになっていた絵たちも、報われるというものですよね。今後も春画展は海外各地で開かれる予定があるとの情報も。世界的な春画の立ち位置の変化に、ますます目が離せません。

…さてさて、こちら予約のお客様だけをお通しする神保町の小さな五拾画廊店内。かつて画廊立ち上げの時、お店の看板を「春画専門」にして春画の鑑定をメインにしたら、現代日本じゃ怪しい店だって思われちゃうかなあ、と言っていた我が五拾画廊店主。春画の立ち位置の向上に、コーヒーをいれながら目を潤ませております(春画愛)。

…まったく本当に人の価値観なんて一夜で変わっちゃうものなのかもねえ…

今日もしみじみコーヒーをすする店主と店手伝い人でした。

 

吉 いと子 (五拾画廊たまに手伝い、フリーライター)

※コラムの次回更新は6月末を予定しております。
<インフォメーション>

2016年のゴールデンウィーク、東京プリンスパークタワーにて「ザ.美術骨董ショー2016」開催!!五拾画廊のブースも出ます。春画も展示販売いたしますので是非お誘い合わせの上ご来場ください。
下記は当画廊の出品作品の一部です。

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欠題春画 明和6年頃(c1769) 作:鈴木春信
春画を見ていたカップルがその気になり行為を始めたところ、猫は起こされてしまったのか怒って抗議している場面。

haikaiyobukodori3 のコピー
「拝開よぶこどり」 天明8年(1788) 作:勝川春章
行為が終了した後の男の冷めた表情に注目。絶対に相手の女性には見せてはいけない顔です…。

 

ブースでは春画以外にも浮世絵、現代版画など取り揃えております。
この機会に是非ご高覧ください。