五拾画廊 浮世絵コレクション!|fifty-gallery

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古美術や浮世絵、絵画、美術関連のコラム

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たかが紙一枚、されど紙一枚 / 第二回

2016年8月2日  


 

〜 浮世絵の素朴な疑問<初級編> 〜

文と構成:吉 いと子


普段は完全予約制でお客様をお迎えする、五拾画廊。

一昨年から骨董ショーなどのイベントで、気軽に浮世絵に触れていただく機会を設けております。
その際、多かったお客様からの「素朴な疑問」をあつめてみました!

さて、ひとつめの「ソボクなギモン」。

「これって最近摺ったの?」

これ、実は一番くらいに多い質問なのです。

「昔のものだから黄ばんだり穴が開いたりしてボロボロに決まってるでしょ」と思われる方も多いよう。もちろん、保存状態によっては昔のものですから、いかにも「古いもの」感がにじみ出た、ボロボロになってしまった作品も多数あります。

なぜって、当時の「浮世絵」はかけそば一杯程度の値段で買えたのです。

今でこそ「古美術」として珍重され、うやうやしく美術館でガラス越しに眺めるようなものとなっておりますが、誤解を恐れずに言うならば、現代に置き換えるとアイドルのポスターとかプロマイドに限りなく近いものだった、とも言えるでしょう。人によってはべたっと壁に貼っちゃったり、飾る都合に合わせて端っこを切っちゃったり…折り曲げて持ち歩いたり…その辺にぽいっと置いて日焼けも虫食いもそのまま、なんて、かなり気軽に扱っていたそう。

浮世絵版画は「紙」ですから、そもそも物理的に天敵は多いのです。

・陽焼け(変色、退色)

・虫食い

・水濡れ

・切断(結構汚れたところや余白を気軽に切っちゃう方も…)

・折り曲げ

・シミ

…などなど。

その上、江戸をたびたび襲った火災や天災、幕末の戦乱、空襲等。その諸々を命からがらかいくぐったのがいわゆる「保存状態の良い浮世絵」猛者、というわけ。状態の良い浮世絵が数多く発見されるのが、当時から珍重し大事に保存してきた海外だというのも、納得がいきますよね。

このように様々な条件が合わさって、「最近摺ったの??」と見間違えるほどに、現代においても美しい状態で残っていることもあるので、皆さん驚かれるようです。

特に人気のある図柄、初摺り(初摺りについてはまた後ほど)というダブルコンボのものは、大変貴重です。

「なんで同じ図柄で値段が違うの?」

前述のように、「状態の良いもの」というのは、お宝浮世絵の一つの条件となります。

古本屋さんで古本を買う時を思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。陽焼けのないもの、折れ、スレのないもの、書き込みや汚れのないもの…新品同様の「保存状態の良いもの」はやっぱりそうでないものより高値であることが一般的です。

そしてもう一つ、特に活版で刷られた本ですと、一番最初に刷られたものは「初版第一刷」などと言ってやはり高値がつく場合も多いです。浮世絵の版画でこれに相当するのが、先ほど申し上げた「初摺り」なのです。

浮世絵を摺るのに使うのは木版ですから、数をこなす事で当然、磨耗してきます。この理由から、最初に摺った200枚前後が、発色や線の美しい「初摺り」と言われているのです。

初摺り以降は色を省略したり、ディテールを省略することが多く、形もちょっとぼやけたり、グラデーションが単色になっていたり…。この幾つかの条件と保存状態のの違いで、いわゆる「レア度」が変わり、同じような図柄でも値段が変わる、というわけです。

広重の有名な「東海道五十三次之内 日本橋 朝之景」はそのイレギュラー版。色味やニュアンスは省略されているけれど、なんと、絵柄自体が変わっています。人が増えてる…??

それがこちら↓

No.0011833年頃

No.0021835年頃

ここまでわかりやすい違いは珍しいけれど、間違い探しのようにじっくり見比べてみると、私のような知識聞きかじりの素人目にも違いがどんどん見えてきます。この「違いを見分ける」ことによって、より楽しくなっていくのも浮世絵鑑賞の楽しみ方のひとつではないでしょうか。

「写楽って人気がなかった…ってホント?」

今でこそ海外でも評価の高い謎の絵師、東洲斎写楽ですが、実は当時、人気がなかったらしいのです…!ただしこれには諸説あります。人気がなかった、という理由は人物を誇張したりリアルに描きすぎたりすることが、当時としては斬新すぎて買う人が少なかったため、と言われています。

東洲斎写楽がなぜ「謎の絵師」と言われているかといえば、無名の絵師にもかかわらず、当時人気だった版元の蔦屋(代官山蔦屋、TSUTAYAの名前の由来ともなった版元さん!)が「売れる!」と確信した版画にだけ用いる雲母摺(きらずり)など材料の原価の高いものを使用してリリースしているというミステリーが。

そんな蔦屋さんの心意気にもかかわらず、人気が出なかったため写楽は増摺が少なく、摺られた数そのものが少ないと言われています。

「今、人気があるのに、現存する数が少ない」…これも必然的に高値となる一要素です。

※参考作品

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「市川鰕蔵の竹村定之進」1794年頃 作:東洲斎写楽

「新版画、再版画って何??」

新版画、再版画、って耳にされた事はあるでしょうか?
実際に「浮世絵欲しい!」と思って買いに行ったら、迷ってしまいそうな言葉です。

「新版画」というのは全く新しい価値観で作られた明治期以降の版画のこと。
渡邊木版美術舗という版元さんが、「木版画には美術的価値がある」と提唱。”美術としての木版画”を作り始めたのが最初、と言われています。その理由は…江戸期以降の「写真」の登場が大きなターニングポイント。
それまで、浮世絵が担っていた旅先の風景を伝える役割や、風俗を伝える役割、役者などのプロマイド、新聞の事件記事のイメージ画…絵師、摺り師、版元が凌ぎを削ったこの革新的ビジュアルムーブメントは、残念ながらこの時期役目を終え、写真へと移行して行ったのです。
ならば、と版画に新しい価値や意味づけを与えようと革新的な発想で作り始めたのが「新版画」なのだとか。
この「新版画」カテゴリーで美術品として作られた木版画の代表的なものは伊東深水、橋口五葉、川瀬巴水など、美人画、風景画が有名です。

※参考画像

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「髪」1952年頃 作:伊東深水

一方、”最近摺ったもの”というカテゴリーに分類されるのは、元々の版木を現代の摺り師さんが摺る「後摺り」、そして人気の絵柄を版木から作り直した「再版画」。これはいずれも比較的お手ごろな上に、当時の摺りたての雰囲気を味わえるので、気軽に飾るインテリアとしてもおすすめです。(現代の彫師、摺師の方の職人技も堪能できます)

現存する人気の絵柄のものは「後摺り」もしくは「再版画」が多いのですが、見分けるコツは紙の違い、色の違い(使っているインクが違う)、そして左下に刷られた版元名。もしも実物を目にする機会があれば、チェックしてみてくださいね。

※参考画像

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「神奈川沖浪裏・再版画」1830−31年頃 作:葛飾北斎

さてさて…次回は、そんな素朴な疑問がちょっぴり解消したところで…

浮世絵、買ってみたい!飾ってみたい!!…でもいったい、どうしたらいいの??

買い方、飾り方のおすすめなどをまとめてお伝えしたいと思います。

 

☆五拾画廊ホームページ連載「たかが紙一枚、されど紙一枚」では、皆さんの知りたい浮世絵にまつわるご質問をメールで受け付けております。お寄せいただいたご質問の中から厳正な抽選の上、当連載の本文中でご回答させていただきたく思います。採用された方には特製、春画ポストカードをプレゼント。→ info@fifty-gallery.com へどしどしご応募ください♪

 

吉 いと子 (五拾画廊たまに手伝い、フリーライター)

※今回は都合により連載の掲載が遅れましたことをお詫び申し上げます。次回の連載更新は8月末9月末の予定です。お楽しみに!