五拾画廊 浮世絵コレクション!|fifty-gallery

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たかが紙一枚、されど紙一枚 / 第四回

2016-12-02  


 

〜 浮世絵のニュージャンル…!?? 〜

文と構成:吉 いと子


 

今から20年くらい前になるでしょうか。筆者が「カスはが」の存在を知ったのは。

「カスはが」すなわち、観光名所などで売られている「なんで?」「誰が?」このハガキを作ったのか??と思わず目を疑う不穏なハガキ。(みうらじゅん先生提唱)

デザインが??のものもあれば、図柄や写真が???なものもある。きっと悪気はなかったのだろうと思えるものから、果たして善意なのか悪意なのか…見たこちらの心が掻き乱されるような絵はがき、それが「カスはが」。

今回のお題は、そんな不穏な絵はがき、ならぬ一目見たら心が千々に乱れる不穏な浮世絵。これを「カスはが」に倣ってここでは「カス版」と呼びたいと思います。

「カス版」とはすなわち今、その芸術性が改めて見直されている浮世絵の中にひっそり佇む(たたずむ)「???」だらけの浮世絵。しかしながら、数々の災害に耐え、数々の物理的天敵に打ち勝ち…100年、200年経っても尚現存する大変貴重な版画…とも言い換えることができます。(紙に摺った浮世絵の”物理的天敵”に関しては過去の連載をご参照ください)

…いやいやしかし、実際にここで取り上げようと「カス」レッテルを貼ってしまう浮世絵を選んでおりますと、絵師、摺り師、彫り師さん総出でこの一枚が摺られるまでの長い道のりと手間ひまに想いを馳せ…安易に「カス」などというのが申し訳なくなってしまいます…。

しかしここは一旦、今回取り上げる作品たちに「悪気はないのよ」と合掌して…それをあえてカス版と呼びたくなるその所以(ゆえん)から、先ずはお話ししましょう。

カス版のカス版たる所以

これまでこの連載でも取り上げてきた浮世絵(春画含む)の魅力というのは、稀代の絵師たちがしのぎを削り、色数や線の強弱など版画ならではのいくつもの制約の中で、デザイン性、芸術性を高めていった「平面の極限に迫る、世界的にも類い稀なる斬新さ」に尽きるのではないか、と思います。

浮世絵には、写真のなかった、もしくは普及していなかった当時、流行りの役者さんや芸者さん、気軽に行くことが叶わない遠くの風景、その時々の風俗や事件、物語などを伝えるとても大事な役目もありました。新しい浮世絵の刷り上がるのをみんながワクワク、楽しみにしていた…当時の最先端メディアだったのではないでしょうか。

それが後期、江戸の終わり頃から明治になりますと、ブームの沈静化、写真や印刷技術の普及、そしてどんな創作物にも立ちはだかる壁…「新しいアイディアの頭打ち」…浮世絵にもじわりと斜陽が。

それでも絵師彫師摺り師さんは現役だし、出版社さんもシリーズものはできれば続けて行きたい…と思ったのではないか?と想像されます。そんな斜陽期に摺られた長年続くシリーズ「風俗もの」(当時の風俗を描いたもの)の中にはヒネったつもりが空中一回転して…スベった…?ものも多い、ということなのかもしれません。(失礼千万、ご容赦ください)

しかしながら、この時期生まれた版画には、むしろ芸術性とはまた別カテゴリーの振り切ったような、思い切った味わいがあります。ここであえてカス版、などと呼んではいますが、そんな日陰の浮世絵たちへ愛を感じずには居られず、むしろ親しみを込めてつけた愛称、というわけです。

では、実際にいくつか、五拾画廊の倉庫奥深くに眠る「カス版」たちを見て行きましょう。


まずはこちら。

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【歌川広景 / 江戸名所道戯画 芝赤羽橋の雪中】

江戸時代、広重の弟子 広景による風俗版画です。

広重の名所江戸百景にも似た、江戸の風流な雪景色…と思ったら、中央、お尻丸出しいではしゃいでいる御仁が。いったい何をはしゃいでいるのか??と思いきや、どうも雪に滑って転んだ様子。橋を行き過ぎる旅人が、お尻丸出しの方が飛ばした下駄にアッパーを食らってる…そして「見ないふり」してそそと通り過ぎる美人…?

なぜあえてこの図柄にしたのかは謎です。師匠のパロディーのような?北斎漫画の影響もあるのでしょうか?それにしてもじわりとくるインパクト…

 

ではお次。

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【歌川芳幾 / 江戸砂子子供遊び 高輪大木戸】

江戸後期の河原沿い。どうやら大人も子供も一緒になって小さな打ち上げ花火を楽しんでいる図のようです。

そうか、この頃から家族で楽しむ小さな打ち上げ花火ってあったんだね…!という感慨も打ち消す、画面中央右の丸出し男子。

…っていうかアンタ、なにしてんのさ…

ナゾです。ナゾすぎる。

ナゾだけどある意味並みの春画より強烈かも。

 

さて、お次

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こちらは作者不詳の、明治初期の浮世絵。

風俗を描いたものには違いないのですが、メインの文字は「勉強する童男(わらべ)」。塩せんべいやにて。その店先では駒を回して遊ぶ男子、そしてわんちゃんをいじめて?いるけしからん子供たち。中央の大人はちょっと縮尺的に大きすぎます。うーん。従来の浮世絵はデザイン性の高さや、「含み」や知的な「比喩」「暗喩」の面白みを味わうのが醍醐味だとすると、これはいったい…。この当時のことを考えると、西洋絵画の構図を浮世絵に落とし込んだのかもしれない、とも考えられますが…ナゾです。まあ、前の二枚のようにまるだし系でないだけいいのかな…。

でも何度か見返すとじわじわくる…。

カス版は実際、結構レア物!

…とまあ、今回は3点だけですが、こうして見て行きますと、カス版に共通するどこかやさぐれているような、どこか投げやりにも思える荒っぽい感じ…というのは、もはや浮世絵の技術があってもかつての熱狂も注目も集められない、ここでデザインや技術を競う意味がない、ということなのでしょうか。とすると、逆になんだか切ないような気すらしてきます。やはり作者のモチベーションというのは「受け手があって」初めて燃え上がるものなのかもしれませんね。

その芸術性において、全盛期に比べれば価値を見いだされにくい後期浮世絵ですが、「だからこそ摺られた面白い図」の視点で探してみると、案外ニュージャンルのお宝を開拓できるのかもしれません。

「カス」とか言っちゃってますが、美術館や図録でも滅多にお目にかかれない実は案外レア物でもあります。新しい版画のマニアックなコレクションとして、いかがでしょう。カス版。

この特集は、「これは!」という作品をまた新たに発見した際は、第二弾を開催してみたいと思います。

 

さて、では次回は、現代においてまだフィーチャーされることが少ない色味も鮮やかな「明治版画」について特集してみようと思います。おもちゃ絵、国会モノなど、珍しいものもたくさん登場します。お楽しみに!

 

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吉 いと子 (五拾画廊たまに手伝い、フリーライター)